おじいさんの孫育て記

いつも奥さんと連れ立って買い物や散歩をされるWさん(64歳)に、ひやかしと若干の羨望の気持ちで「お仲がいいですね。若いときからそのようでしたか」とたずねたら、

「3年ほど前から、娘の家庭がなんとなくうまくいかず、それが原因なのでしょうか、妻が自律神経失調症になりました。家事をこなすのに支障はないようですが、外出は1人でできず、やむをえず濡れ落ち葉のように私が一緒についていくわけです。

4年前に仕事を離れ、2人の子どももそれぞれ独立したので、これからはいままでの罪滅ぼしの気持ちで妻をいたわり、仲良く静かに生活を楽しみたいとようやく緒についたところだったのですが、いつまでも苦労の種はありますね」と肩を落としての話であった。

しばらくぶりでWさんにあったのは駅前の書店である。時分時(じぶんどき)でないのでコーヒーでもと誘われたが、喫茶店ではなんとなくさまにならないので一杯飲めるところに落ち着いた。Wさんの話はこうだった。

「11年前に結婚した娘には子どもが2人います。小学5年のG君、1年のYちゃんです。娘は美術大学を出て自分の好きな仕事をやりたいとデザイン関係の会社にいるのですが、仕事と家庭の両立ができず、仕事と子どもを選んで離婚し、私どもの家に戻ってきました。

そこで妻と話し合ったことは、いままで親といっても娘の家庭の領域に踏み込めず、周囲でやきもきしていた心労から解放されたと考えれば気が楽になる。自分の選んだ道を責任をもって歩けと育てた娘が壁に突き当たっているときに、できるだけ手助けしてやれることはありがたい。おまけに、2人の子どもを手土産にして帰ってきたのだからなおさらである。

K書店で選んだ本はなんだと思います。G君の進学のための参考書なのです。かつて1男1女を育てた経験を生かして、孫の勉強をみることで若さをとりもどしたい気持ちです。私の教育方針はいたずらに勉強を強いるのではなく、なにをしたいか、なにになりたいかと問いかけることです。そのためにはどうしなければならないかと、子どもの自発性を引き出すだけです。

子育てが終わり父親代わりに孫育てする羽目になったことに感謝しています。逆にG君、Yちゃんを通 して教えられることも多く、ようやく育児とは育自であることを知り、充実した毎日です」