近頃よく見かけること、余暇のつくり方、利用方法、老後の生き方、生き甲斐づくりなど、お役所の指南に関することである。

ありがたいことであるが、定年後の心構えや生き方のマニュアルまで用意されては、いままで組織の中で指示待ち族として仕事に生きてきた路線の延長と同じで、自立への巣立ちができないのではないかと思われる。

生き甲斐づくりの献立表をつくって「さあ、どうぞなんでも好きなものを選びなさい」と言われているようなものである。

旧友のA君と久しぶりに会った。

「この年になるとなんとなく人恋しくなって昔の友達を訪ねて懐古談をしたくなるというが、僕はいやだね。なぜかというと、昔話は一時しのぎになるがなにも生まれないからだ。

合言葉は、いまなにをしているかということだが、いや−、なにもしていないよと判で押したように返ってくる。

この前、ご存じのW君に会ったときも同じ。僕が聞いたのは仕事のことではないんだが、なにかをしているということが仕事のことと考える性(さが)が重くて悲しい。そこで僕がいましつづけていることを話したよ」

A君いわく「いまやっていること、生き甲斐づくりの料理をつくっている。与えられたメニューを選ぶのではなく自分でつくり味わうことだよ。

健康についてはコマメに体を動かしできるだけ歩く。頭の体操を兼ねて一度も乗ったことのない地下鉄路線を利用して、いままでいつでも見ることができるとのことで見逃してきた都内の名所旧蹟を訪ねる。思えば山手線を一周したことがない。大崎を起点として1周35.4キロメートル、駅29、所要時間60分、駅名を暗唱する。

JR東海道線は浜松まで言えるよ。くだらないことのようであるが、ほかにも品数はたくさんある。要は日常生活の中に生き甲斐料理の素材が豊かにあり、それを素材として認める眼をもち自分で料理することである。

その心構えは、知らないこと、分からないこと、疑問に思うことにすぐ挑戦するやる気と根気である。

アラカルトは生活の彩りとアクセントをつけてくれるが、メインディツシユ(ライフワーク)は地域でのボランティア活動であることを加えておこう」と。