「ばばコンじいさん」

これは友人K君(70歳)の造語である。いわゆるマザコンもじつての自戒と自嘲の笑いをこめた表現である。

マザコンはご承知の通りマザーコンプレックス=母親思慕錯綜=のコンであるが、ばばコンはばあさん(奥さん)によるマインドコントロールの略語であると笑いなから説明を加えてくれた。

5年前に定年退職してからは年4回ほどの会合を共にするつき合いだが、何となくウマが合うのか楽しく充実した気分を味わうことができる友人である。

地位によって人間が変わる人種が多い組織の中で職場が変わろうが昇進の機会に恵まれない場合でもグチなしボヤキなくきっちりと仕事をこなす。是々非々を峻別 する見識と媚びのない言動。判断力、実行力、指導力、企画力、協調性、責任感などの評価はすべてAを付けたものである。寡黙だが人づき合いもソフトであり非の打ちどころがない人物像であるが弱点を併せもっていることは面白い。

俗に組織で部下に対して威張りちらす人間は家では嬶天下で虐げられ、上司の言うなりに頭を下け放しで一見従順な者は亭主関白と奇妙にバランスをとり、とられているものである。

前述の通りK君の仕事場の態度からこの2つのパターンはあてはまらないが奥さんの告げ口によると

「いわゆる無駄口を言わない。結婚後41年、最初は戸惑いの連続。それを下さい、今晩はビールにしましょう、子供たちには食事をしながら喋らないように、犬喰いや喰べる音をたてないこと、早飯は体によくないよ、と命令調ではないが効き目がある。

身の回りのことは自分でやることと子供たちにはつぶやきながら自分は靴磨き以外は一切やらない。段取りよく並べておいて下さいとのことで下着、ワイシャツ、靴下、ハンカチ、ネクタイ、スーツと揃えておく。これが35年余の生活スタイルでした。
子供の進学、結婚など節目のときは意見をいいます。時折うなずきながら聞いて結論を出してくれる。亭主関白みたいですが食事と身の回りに手抜きをしなければ私の時間についてはとやかく言われませんでした。さすが主人です“私はばばコンじいさんだな”という言葉ににっこり笑い合いました」。