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◆「報徳」と「推譲」の思想 次に「報徳」について述べます。尊徳は「徳」を特性、長所、取り得、持ち味なども含めた広い意味で捉えています。また人間に限らず鳥獣虫魚、山川草木、寒暑風雪、更に筆や紙の日用品に至るまで、あらゆるものに“固有の徳”を見付けています。 このように徳を幅広く解釈すると、私達は様々な徳を受けて生きていることに気付きます。そこから徳に報いなければならない、という考えが生まれます。報いるとはまず“ありがたい”と思い、その上で“お返し”をしようと心掛けることです。お返しをするには、自分も徳を伸ばす修養が必要です。 「推讓」(すいじょう)も大事な教えです。「推」にも「譲る」(ゆずる)という意味があります。勤勉・倹約の結果 、多少の余裕が出ました。ホッと一息、贅沢に走りたくなるのが人情でしょう。だが尊徳はその余裕を「次の世代に譲れ、社会に譲れ」と教えているのです。余裕はお金や品物だけではなく、心の“ゆとり”も含んでいます。「推譲」は「奉仕の精神」の原点です。 ◆負薪読書少年像が教える向学心 ここで負薪読書少年像に注目しましょう。金次郎が持っているのは書物です。とすればこの像が教える徳目は勤勉、努力そして「向学(好学)心」です。映像文化が花盛り、加えてIT革命です。知識が簡単に手に入る時代になりました。だからこそ子供達に“読書の大切さ”を教えることが大切です。 負薪読書少年像に対し、交通事故を心配する声があります。が、自動車がない昔でも読書に熱中し、曲がった山道や田圃の畦道を歩くことは困難です。この像は「想像力が生んだ向学心のモデルだ」と教えればいいわけです。金次郎像は今や貴重な文化財です。現存する学校は大事に保存して下さい。 小学唱歌『二宮金次郎』の2番を掲げます。 骨身を惜しまず仕事をはげみ 夜なべ濟まして手習讀書 せはしい中にも撓(たゆ)まず學ぶ 手本は二宮金次郎 (昭和10年版) 昔の2年生の唱歌です。現在と比べ国語のレベルはどちらが上か?戦後教育の反省点の1つです。 若い者は時代錯誤(アナクロニズム)だ! 懐古趣味(レトロ)だ! と笑うでしょう。笑えるのは日本が暖衣飽食の社会である証拠です。その豊かさを獲得したのは誰か!? その主力はこの唱歌を歌った世代、この歌を聞かされて育った世代です。だから年配者は遠慮はいりません。「よく勉強しよく働いたから、今日の豊かさがあるんだよ」とお説教をする資格を持っています。 渡辺登(崋山)は江戸末期の洋学者。画家としても名を成しました。崋山に関する修身教科書の徳目は、孝行・兄弟・勉強・規律等でした。 上杉鷹山は江戸後期の米沢(山形県)藩主です。米国のケネディ大統領が「最も尊敬する日本人」と称(たた)えた人ですが、今の日本で「ようざん」と読める人がどれだけいるか?試してみたい問題です。 鷹山は率先垂範、倹約を実行してどん底状態の藩の財政を立て直しました。また農業の振興とともに新たな産業を興し、領民の生活を安定させました。教科書の「志を堅くせよ」という課に載っていた次の和歌は、子供達の“頑張り精神”の源泉でした。 「なせばなる なさねばならぬ何事も ならぬは人の なさぬなりけり」 ◆フランクリンの「13の徳目」 フランクリンはアメリカ『独立宣言』起草者の1人です。貧しい暮らしでしたが実業、科学、政治、外交等の様々な分野で活躍をしました。修身では自立、規律、公益等の課目に登場します。彼は“成功の秘訣”として「13の徳目」を挙げています。
成功(神の恩恵)は禁欲的な精神を貫いた者にのみ授けられるものだ、と教えているのです。 資源大国アメリカの子供は今でも、フランクリンのサクセス・ストーリー(出世物語)に胸を躍らせているといいます。資源小国日本で今、二宮尊徳を尊敬している子供は、何%くらいでしょうか? 終わりに子育てに関する江戸の諺を掲げます。 「三つ心、六つ躾(しつけ)、九つ言葉、文(ふみ)十二、理(ことわり)十五」 3歳までに美しい心を養い、6歳までに美しい仕草を身につけ、9歳までに正しい言葉を覚え、12歳では立派な文章が書けるようになり、15歳で物事の道理を弁えた成人になる、ということです。 変化の時代です。すぐに役立つ知識や技術が必要です。が、それだけでは人間がロボットになってしまいます。前回の『あおげば尊し』と並んで「修身」も、話し合いの話題にして下さい。 |