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この場所のごみは捨てられてからだいぶたっていますね。ペットボトルが見当たらないし、2、30年はたっているんじゃないかな |
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着いた先は、何の変哲もない雑木林。なにも言われなければ「空気が美味しいな」と深呼吸でもしそうな場所だった。参加者も「ここがそうなの?」といった顔だ。 「それではこれから始めますが、いくつか注意点があります」 注意点のほとんどは、ごみの分別について。瓶や缶からはじまって、不燃物や粗大ごみ、果 てが注射器などの医療器具などが見つかった場合の処理にまで説明がなされた。聞いているうちにただの茂みに見える背後の森が、なにやら危険物だらけの地雷原のように思えてくる。ゆるんでいた気が引き締まる。 「それでは皆さん、始めましょう」 ヨーイドン、といった感じで全員が森に入って行く。道路にはごみを待ち受ける大井さんのトラックがとまっている。いまはまだ空荷だが、「これが30分もすればおかわりするくらいにごみでいっぱいになるんですよ」、そう大井さんが教えてくれた。 実際、30分どころではなかった。始めて3分もたたずに、40人全員の持つごみ袋には得体のしれないごみがたまりはじめた。飲料の空き瓶や空き缶 はもちろん、塗料や灯油などの缶や、業務用と思しき電気コードなどが、次々と草の聞から出てくる。 「これはなんだ?」と引っ張ってみれば、土の中からわけのわからない物体が顔を見せる。むろん、よく見れば正体は掴めるのだが、土まみれなうえに錆びついていて、よく見なければそれがなんだかわからないような物が多いのだ。 「この場所のごみは捨てられてからだいぶたっていますね。ペットボトルが見当たらないし、2、30年はたっているんじゃないかな」 3人がかりで引っ張り出した旧型の電子レンジを見ながら舟津さんが推測する。 「捨てた人たちは、これが悪いことだって意識が当時はなかったと思うんです。昔から、ごみは山に捨てるもの、それが当たり前だったんじゃないでしょうか」 確かに、日本人の間に環境保護の意識が高まったのは最近のことだ。2、30年前となるとこれが当たり前だったのかもしれない。 「でも、これでまた1年もして見に来るでしょう。そうするとまた誰かがごみを捨てているんです」 呆れた話だ。家電リサイクル法でごみを捨てるにもお金がかかるようになった現在、粗大ごみなどの不法投棄は確信犯以外の何物でもない。しかも富士山は国立公園だ。こんなことが許されていいわけがない。 |
この日はとくにタイヤやトタン板など、どう考えても組織的に捨てられた粗大ごみが多く見つかった |
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それにしても、広大な富士山麓でよくこのように不法投棄されたごみを発見できるものだ。それだけ捨てられているごみの数が多いという一面
もあるだろうが、『富士山クラブ』の調査力は相当なものである。 舟津さんいわくごみさがしのコツは「捨てる側の気持ちになってみること」。 「恥ずかしながら、僕も以前はボイ捨てくらいならしたことがあった。そういうとき、どういう場所でしたかなと考えれば、だいたい察しはつくんです」 ごみは、誰かがひとつでも捨てれば、「あ、ここに捨てていいのか」とまた誰かが同じ場所に捨てる。それが人間の心理というものだ。要は「赤信号、みんなで渡ればこわくない」の原理。茂みにひとつごみを見つけたら、その奥も見てみる。すると必ずといっていいほど別 のごみが落ちている。あとは道路沿い。とくに今日の場所のように道から少し離れただけで沢になっていたりして土地が傾斜している場所は捨てたごみが目立たない。捨てる側にとっては好都合な地形だ。 捨てる側にとって好都合な地形は、片付ける側にとっては難所だ。覗いてみると、崖の底にいたるまでごみが積み重なっている。ボランティアの人たちは、これをバケツリレー方式で持ち上げて行く。なかには両手にあまる物も多い。この日はとくにタイヤやトタン板など、どう考えても組織的に捨てられた粗大ごみが多く見つかった。何年前だか何十年前だか知らないが、捨てたときの光景が目に浮かぶ。おそらくは数人でやって来て、それとばかりに崖の下に放り投げて捨てたのだろう。最後に手をバンパンと払い、ひと仕事終えた気分で帰ったに違いない。汗をかきながらごみをリレーするボランティアの人たちの姿を見ていると、不法投棄をした慮外者たちに義憤を感じる。 |
清掃活動 清掃活動の参加者は10代から60〜70代までさまざま。年間を通じて山麓から登山道まで定期的に清掃活動を行っています。この日は一般 の参加者のほか、「セブン−イレブンみどりの基金」のスタッフや各地のセブン−イレブンのオーナーの方々も参加した |
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ちなみに、ボランティアとはいえ参加費は無料ではない。誰もが『富士山クラブ』に参加費を収めて参加している。「参加費をいただくのはどうかという思いもあるけれど、ごみ処理にはお金がかかる、その事実を肌身で感じるにはいい機会かな」というのが会の考え方だ。 大井さんの言ったとおり、気が付くと集まったごみがトラックの横に溢れていた。ここで集められたごみはいったん西湖近くにある山梨事務所(『富士山クラブもりの学校』)に運び込まれ、ごみの収集日まで保管される。 「これは1回じや無理ですね。3回か、へたすると4回は往復しなきや」 予想以上にごみが集まったのは「皆さんが張りきってやってくれたおかげ」だ。そう、実は始めてみると、意外なまでにごみ拾いは楽しいのである。大勢でかかれば、成果 はみるみるうちに挙がっていく。「それは次回でいいです」という指示が出ても「やりたい」と身体が勝手に動き出す。これもまた人間の心理というものなのだろう。 この日は最後に業務用のコピー機という大物が発見された。崖の底にあるため、10人がかりくらいでロープで引き上げるほかないような代物だった。 「今日はもう時間もないし、それは有料ごみなので行政に相談します」 舟津さんの言葉に、皆悔しそうな顔で領く。 50メートル四方の雑木林。ひたすらに広い富士山麓のなかではわずか一点にすら満たない面 積だが、少なくともこの場所を占めていたごみは消えた。気が遠くなるような作業だが、「続けるしかない」と舟津さんは決意を語ってくれた。 「本当は富士山が世界遺産になるかどうかは問題じゃないんです。単純に汚いのは嫌だな、恥ずかしい、ということなんです」 日本一の山を本来の美しさに戻す。『富士山クラブ』の活動は続く。 今回紹介した『富士山クラブ』では随時会員を募集しています。入会、清掃活動、環境学習などの問い合わせは下記へ。 特定非営利活動法人『富士山クラブ』 本部・東京事務所 〒105-0013 東京都港区浜松町2-7-13浜松町パークビル2階 TEL:03-5408-1541 FAX:03-5408-1507 山梨事務所(富士山クラブもりの学校) 〒401-0332 山梨県南都留郡富士河口湖町西湖2870 TEL:0555-20-4600 FAX:0555-20-4601 URL http://www.fujisan.or.jp E−mail jimukyoku@fujisan.or.jp |
(上)富士山トイレ浄化プロジェクト 富士山の屎尿問題解決のため杉チップを利用して屎尿を分解するバイオトイレを設置。このプロジェクトには2000人のボランティアが参加した (下)シンポジウムなど開催 国内外からゲストを招きワークショップのほか、シンポジウムを開催。市民としての提言を行っている |
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